大多数がその日暮らし
アフリカの事業が動き出してから、3年が過ぎましたので現状報告をします。3年前にも少し触れましたが、タンザニアの都市部では、農村から出稼ぎに出てきて、路上販売、零細製造業、日雇い労働などの職を渡り歩く人たちが社会の主流です。
こうした人たちが都市人口の66%強を占めます。つまり、日本におけるサラリーマンのような多数派が、零細な仕事を転々とする「その日暮らし」をしています。この3年間、戸惑ったことが沢山ありますが、日本人と比較して”特に”の部分をお話しすると、時間です。10分前行動、ありえません。
たとえば今日、13時から打ち合わせだったとします。「たぶん遅れてくるだろう」と思い、先方のオフィスに10分ほど遅れて行きました。それでも居ません。電話をかけてみると別の場所にいると。これが日常茶飯事です。
もう一つは、仕事に拘りがない。私たちは、何故、何の為にこの仕事をしているのか、という信念のようなものがあります。
当初は、自分の気持ちを押し付けていましたが、それでは逆に距離が出来てしまい考えを理解してもらえませんでした。そこで、「どういう風に事前に準備するか」、「どういう風にお願いしたらいいのか」と考えるようになっていきました。簡単に言うならば、自分が望むカタチにするため、1~10まで必要なことを細かく分かりやすく伝えるようにしました。
皆さんも、タンザニアで働くと「相手に気を配ることができる、日本人の凄さ」を理解できると思います(笑)。
風流ではなく命を守る蚊帳
改めて、今、私たちが行っている事業のスタートラインに戻ってみましょう。タンザニアは、衛生状態があまりよくありません。コレラや食中毒が日常的に発生しています。中でもかかりやすい病気が、マラリアとデング熱です。共に、蚊を媒体とし刺されることで発症します。
マラリアは、予防接種はなく,マラリア原虫を有するハマダラカ(蚊)に刺されないようにすることが基本的な予防策になります。
ハマダラカは夕方から明け方にかけて吸血行動をとるので、日没後は窓を閉めるか網戸にし、蚊取り線香や蚊帳を使用しています。デング熱も、予防接種や治療薬はなく、蚊に刺されないようにすることが唯一の予防策です。
世界で毎年5億人以上がマラリアを発症し、100万人以上が亡くなっています。日本では、見かけると”風流”と言われる蚊帳ですが、こちらでは命にかかわる問題として、蚊帳を使用しています。
10万着の古着が100万張りの蚊帳を生む
私が入社した当時、20万着の買取が行われ、10万着を小売し残り10万着をネットオークションで償却していました。オークションに流れている服の相当数は海外に流れており、様々な過程を経て他の商品へとその姿を変えています。
そこで、オークションで償却していた分の服を加工し、マラリア防疫用蚊帳を製造する取り組みに着手しました。国内の製薬会社に依頼し、人に優しく蚊に有効な薬剤を開発(開発内容については重要機密)、細かく裁断した服から糸を編み出し薬品を染み込ませます。
当初は、蚊帳の製造についても国内で生産体制を整備してまいりましたが、流通と生産コストの面から、現地のバーネット社と提携。バーネット社の工場稼動により、生産能力は約100万張り/年となりました。
国内の事業がタンザニアに繋がっている
アフリカ事業の第一の目的は、服の回収・リサイクル、省資源製品の開発などを推し進めることで、できる限り新たな天然資源の使用を抑制するとともに、廃棄物を減らすことです。
その行動が、人々の命を守ることに繋がり雇用まで生み出しています。今回、バーネット工場で、蚊帳の製造ラインに1,000人が雇用されました。急速に人口が増えていく中で、「稼ぎたい、稼がなくてはいけない…」、そういった強烈な上昇志向を持つ若者をサポートすることができました。
新興国で可能性を具現化出来るのは、業界内でもそう多くはありません私たちは国内に確固たる基盤を持ち、多くのお客様を相手に“三方良し”の関係性を築ける数少ないプレイヤーです。国内で育んだビジネスを更に追求していくことに、大きな意味があります。
日本のビジネスの最前線と新興国の最前線が、今、繋がっているのです。
海外事業戦略室 チーフ 杉崎 真矢