響かなかった姉の助言
「先輩から、二回、三回と同じことは言われないこと。何か指示されたら必ずメモする。そして、一日が終ったら、その指示内容を読み返して、何故、何のために、その指示があったかを、自分の中で考えること」入社の祝いとして、姉からシステム手帳を渡された際に真剣な眼差しで言われました。
6歳年上の姉は、通販会社のお客様相談室で、チームリーダーを務めます。メンバーは、男女合わせて20名です。社会人として、きちんと自分の道を歩んでいる姉のアドバイスは、最初に頂いた助言でした。ただ、その頃の私は、姉が伝えたかったことの意味を、1/10も理解していなかったと思います。
お客様の気持ちは行動に現れる
大学でマーケティングの勉強をしていた私は、総合職として入社。配属先は、販売戦力部門を希望しました。ただ、一年間は研修を兼ねて店舗へと配属となりました。バイトで飲食店に勤務したことから、お客様への対応に抵抗はありませんでしたが、洋服を販売するのはそれとは全く違いました。
会社の行動指針である、「お客様の期待を良い意味で裏切る」「気を回すことが差別化に繋がる」を具現化すべく、先輩や店長から指示が出ます。ディスプレイや商品管理は、業務として覚えることで仕事は進みます。しかし、接客は違います。お客様の気持ちを動かさなければいけません。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」「特に、大丈夫です」全く上手くいかない私に、先輩から「お客様の目線を見ることが大切だよ」と一言。「わかりました」と、答えたものの深くは考えず、翌日も同じことを繰り返していました
それから数日経ったある日、先輩から「私が教えてあげたこと、全く理解していないね」と言われました。正直、最初は何のことか一瞬分からずにいました。
続けて、「同じことは、もう二度と言わないからね」と。
その瞬間でした、姉から言われた助言が蘇りました。翌日から、アドバイスをしてくれた先輩の動きを、商品を整えながらずっと注視しました。すると、お客様が入店してからどのルートで商品を見てきたかをさりげなく探っていました。
そして、出入り口付近で触れたシャツのタイミングで、「先ほど、ご覧になられていたスカートにもピッタリの組み合わせだと思われます」「このシャツは、麻ですよね。質感は合いますかね?」と、自然にキャッチボールがはじまっていました。
定型的な接客しかできなかった自分にとって、お客様に寄り添う先輩の姿勢は、「凄いな」と思いました。これが、お客様の目線を追いかけるということ、と理解することができました。
私たちの仕事はモノ売りではない
一人ひとり、お客様が興味を持っているものは違う。何を求めてご来店されたのか、いち早く気づかなければ、最善のプレゼンテーションはできない。どんな魅力的な商品を製造したとしても、店舗で販売を担うメンバーの技量無くして商品は売れない。「お客様の目線」、とアドバイスして頂いた裏側にあったのは、単に物売りをするのではなく、お客様のお気持ちに寄り添いながら導く事でした。
入社以来、数ページしかメモしていなかったシステム手帳は、気づいた事、助言して頂いたことで、どんどん埋まっていき、メモの枚数は、80ページを超えました。販売戦略部に異動しても、企画の道筋がお客様目線から外れないように、毎日、見返すようにしています。文字を読むのではなく、本質を心に刻むために。
販売戦略部 安田健二郎