品質ではなく形を求めた結果
私が大学生の頃、通販でサルサパンツを購入したことがあります。
色は紺でシンプルなものを探していました。2〜3日、様々なブランドのサイトを眺めたものの、”コレ”といったものに出会えませんでした。最後は、Amazonでノンブランドのものを眺めていると、自分のイメージにあった一本がありました。
価格も1,980円と安く、スグに購入し届く日を心待ちにしていました。
ところが、ワクワクしたのは到着までの二日間で、袋を開けて手にした時にはどん底に突き落とされる気分でした。
まず、目に入ったのが腰紐の立ちおとし。斜めに切ってあるものの、左右の形が違い縫いもガタガタで雑。
恐る恐る、裏返してパンツ全体の縫製をみると、強い力がかかれば破けてしまいそうでした。
それでも、価格を考えるとこんなもんだろう、と自分に言い聞かせて2、3度履いてみました。
数日後、少し汚れたこともあり、洗濯することにしました。
紺の色落ちを考えパンツ一本だけを洗濯機に。ダメージを考え、ソフト洗いを洗濯。
更なる驚きは、ここからでした。30分後、洗濯機から取り出すと膝分の縫製にほつれが。
よく見ると何箇所も同じようにほつれていました。
ひと針ひと針に込められた想い
この会社に入社し、研修で訪れたのは静岡にある縫製工場でした。
社員であれば、一度は訪れるこの工場、私はここで改めて自社製品への自信と誇りを持ちました。
「ここで働く職人さんは、同じラインで何十年も、繰り返し、繰り返し縫製を行い、卓越した技術を持っています。新人が入ると、受け継がれてきた技術をきちんと引き継ぎます。
そして、引き継ぐのは技術だけではありません。何故、何のために自分たちの仕事があるかもです」
工場長の小林啓太さんが語るように、ひと針、ひと針、黙々と差し込んでいく姿は作業ではなく生み出していくような雰囲気です。10年以上働いているという、豊田麻衣子さんに話を聞きました。
「入社時、一枚の服を手にして、社長からこんな質問がありました。これは、何に見えますかと。
指された私は、服です、と答えました。すると、正解であり不正解です、と言われました。
この服を気に入って購入されたお客様の気持ちを想像してみてください。気持ちが高揚して、
仕事に行くのが楽しくなる、楽しいデートがさらに楽しくなる。
この服は、お客様の気持ちそのものです。もし、縫製が雑だったら、デザイナーが考えた形は
未完成のままで、お客様を不幸にします、と。ですから、ここにいるメンバーは、
皆、単なる縫製工場とは考えていません。
服に魂を吹き込み、お客様を笑顔にすることが仕事だと誇りを持っています」
この時、大学生の時に購入したパンツのことを思い出しました。
そして、優れた製法技術というのは、無論、練習も必要ですが、それ以上に自分たちの仕事をどのように捉えるかで変わってくるものだと思いました。
「お客様は、デザインから入ります。それで良いのです。
今日、皆さんがご覧になれられた縫製現場は、
お客様に服を販売する際に皆さんの安心であればと思います。
繰り返し洗濯しても、期待を裏切らない品質であること。
それは、やがてお客様にも理解いただける瞬間が必ず訪れます。
そして、次もここの店の服にしよう、と」
工場長の最後の言葉を胸に、縫製工場で働く皆さんの想いを引き継ぎ販売の現場に立とうと思いました。
営業部 西日本販売 田中 武